■おおきく振りかぶって 〜夏の大会編〜
第5話「野球やりたい」
《四回裏、西浦高校の攻撃は、4番、センター、花井君》
(ツーアウト二塁…シングルで後ろに繋げばいいんだ、自分で点入れようと思うな…!)
さて前回、田島のすばらしい走塁をまざまざと見せつけられて打席を迎えた4番花井。
ランナーは二塁、点差は0−6、ちなみにコールド勝ちは五回までに10点差、または七回までに7点差をつけた場合に成立するので、
五回コールドを狙うならまずは出塁すること、七回コールドを狙うなら二塁ランナーを返せるヒットが求められる場面です
まあどちらにせよ、今ここで花井に必要なのはでかい長打よりも確実なヒットなわけですが…
(満足してんなよ)
(ぐっ…!満足なんか…してねえよ!!)
ズッバアアアアン!
「スットライーク!!」
しかし確実なヒットを狙いにいった瞬間、「4番のくせにまたセコいヒットで満足ですか(笑)」と頭をちらつく田島の言葉!
その途端にリキんでしまった花井は、ぶいーんと空振りしてワンストライク取られてしまいます
(プレッシャーが効いてるのかな…すごく力んでる。ほら4番!しっかりしなさいよ!)
(ぐぐ…いつも通りに動いてるはずなのに、なんかしっくり来ない…
手も足も意識しすぎてぎこちねえ…
4番のプレッシャーなんか、中3で克服したんじゃねえのか!?)
ズッバアアアアン!
「スットライーク!!」
(俺の打ち方って…どうだった…!?)
もはやあまりにもテンパりすぎて、自分の普段のバッティングさえも分からなくなってしまった花井。
無我夢中で二球目も振り回しますが、無情にもバットは空を切り簡単に追い詰められてしまいます
「固いぞ花井ー!!」
「狙いすぎー!!」
(カ…カッコわりい…空振ってんの見られたくねえ…!
はっ!?ア、アホか!バッターは4割打てば褒められんだぞ、
凡退があって当たり前だろ!何を今さら…)
それでも混乱した頭の中で、「失敗を恐れるな」と必死に平常心を取り戻そうとする花井。
しかし、それだけ冷静になろうとしてもバッターボックスに立ってみると…
「ツーアウトツーアウトー!広く広くー!」
(うぐぐぐ…!右打席だとベンチの中が丸見えなんだよ…!
チクショウ田島…!てめえちょっと向こう向いてろぉぉ!!)
ズッバアアアアン!
「スットライーク!バッターアウッ!!」
またしてもバットは空を切り空振り三振!うわああああ!打席に入った瞬間、ベンチの田島が視界に入って
完全に平常心がぶっとんでしまったようですな…これで花井の打席は1打席目:犠牲バント、2打席目:ライトフライ、3打席目:空振り三振と
結果はどんどん悪くなっていくばかりです。これではもはや4番としての立場が…
「…はあ…悪いな三橋、7点目入れてやれなくて」
「え!?え、あ、え、おぉ…」
「なんだよ、今日のコールドはお前のためなんだろ?」
「え、お、俺も、ババ、バントできなくて…」
「お前じゃねーよ…俺がチャンス活かせなくてって言ってんの」
「お、お、俺…」
(あ〜くそ…人が恥をしのんで…)
「俺、俺…」
「お前じゃねぇっつってんだろ!!」
「ひいっ!?ひいーーっ!!」
そしてついに花井のストレス大爆発!自分のふがいなさをひしひしと感じてベンチに戻ってきたところに、
三橋がキョドりまくって「俺の方がダメ俺の方がダメ」と言う姿を見て、思わずイラッときて怒声を張り上げてしまうことに…
確かに元々イラついているところに、三橋のこのキョドキョドした喋り方されると大抵の人がどかーんと爆発するでしょうな…
「…あ…」
(花井君…クスリが効きすぎてるかな?一言声をかけるか…
いや、ガマンガマン!本人せっかく煮詰まってるんだから、水さすのはやめよう!)
(お、俺八つ当たりしたのか…?やばかったかな今の…ピッチング大丈夫か…?
この回終わったらグラ整だし、その時ちゃんとフォロー入れておこう…)
そんな花井に怒鳴られた途端、超速でベンチから逃げ出してしまった三橋。はぐれメタルかと思うような弱気っぷり
しかし花井は、そんな弱気なピッチャーに刺激を与えてしまったことを心配してしまいます
今ので三橋が調子を狂わせてパコパコ打たれ始めたら、「三橋を休ませる」という目的のコールド勝ちが無意味になってしまうわけで…
そんな不安を抱えながら守備についた五回の表ですが…
「アウトォー!」
「アウトォー!」
「アウトチェンジ!」
(さ、三球で終わった…三橋全然崩れねえや、俺が心配する必要ないっつーか…
三橋なら満足すんなとか言われないだろうな…三橋も田島も、今の自分に満足してねえのはスッゲー分かる…
俺だって満足してるわけじゃねえけど、あいつらと俺で何が違うんだ…?)
なんとバッター3人をわずか3球で片づけてチェンジにする三橋!これはすごい…さっき怒鳴られたのなんてまったくピッチングに影響してません
そういえば前々回もさんざん客席からヤジられまくったのに、平然とピッチング続けてましたっけね。三橋はそういうところ図太いな
考えてみれば花井はそういう「他人から何か言われる」ことにすごく神経質で、今もバッティングを崩している状態ですからね…
それは花井自身も感じているようで、三橋と自分で何が違うのか攻撃中にも考え込んでしまい…
(おそらく花井君の打席はあと一回…ランコー中の声出しを忘れるほど
プレッシャー感じてるんでしょ?何か掴んで!)
そして攻撃中、ランナーコーチ用のボックスに入っているのに、ずっと考え込んだままランナーへの指示をすっかり忘れてしまう花井。
でも問題はそれよりランナーコーチを乱交と略すモモカンだな…(えー
乱交中の声出しですって!?
おいおいこのセリフはピーーって放送禁止用語扱いした方がよかったんじゃ:;y=_ト ̄|○・∵.
ターン
《両チームで、グラウンドの整備をお願いします》
「あ、三橋!さっき…ごめんな」
「えっ!?あ、え、うぇえう…」
「四回裏終わったとこで、ベンチで俺デケー声出しただろ…?あれ、ごめんっつってんの」
「うう…ち、違う!あや、あやまることしてないよ!」
「違くねーよ…だってお前、あの時ベンチで固まってたじゃんよ」
「おぅおぉ!お、俺、俺、俺…!」
(あぁ、この言い方じゃ三橋がビビリ屋だって言っちゃってんな…)
「いやでも、その後の投球には全然響いてなかったよな、ビビッてねーよな…お前いい投手だよ!」
「ひぐうっ!?」
そして五回裏が終わったところで、一旦試合が中断して両チームでのグラウンド整備が始まります。
そこで花井は、さっき考えていたように三橋に八つ当たりしたことのフォローを…。いい加減な奴なら
「なんだ、別にピッチング崩れてないからいいや」と放っておきそうなものですが、ちゃんとフォローしにいくあたり花井は偉いですね
三橋がおびえないように、色々言葉を選んで喋ってるのも好感持てます
しかし「お前いい投手だよ」と誉められてるのに何故かキョドりまくっておびえる三橋がダメすぎ。もうちょっとしっかりしろよ…
「は…花井君は…凄い…」
「え…?何が?俺は凄くねーよ」
「す、凄い…よ!」
「…はあ…俺より…田島のがすげえだろ」
「っ…」
(ああ…聞いちゃったよ…だってもう言われた方がスッキリすんだもん。さすがに言いにくいか?
でもお前、かわす技なんか持ってねーだろ…?悪いけど、田島のがすげえって言っちゃってくれる?)
その時、さっきから「チャンス活かせない俺ってダメだな」と言う花井に「花井君は凄い」と繰り返す三橋。
そんな三橋に、花井はここでハッキリ田島の方が凄いかどうかを確かめようと…ああ…分かるでしょうかこの質問の意味が
田島はナンバー1、自分はナンバー2止まりということをここで認めてしまおうということです
田島という壁を相手にもがくことなんて、もう無駄だからやめてしまおうと…そういう弱気にかられてしまったわけですな…
「た、た、田島君…田島君が、ピッチャーしたら、俺…かなわない…」
「…は…?」
「は、花井君、球速い…沖君、左…本気になったら俺、かなわない…」
(い…いつから投手の話に…!?もしかして、話が全然通じてない…?)
(C)荒木飛呂彦/集英社
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俺の話だと言っとるだろーが!
人の話聞いてんのかァ
この田ゴ作がァーーーッ!!(えー |
ところが「花井と田島とどっちが凄いか」という質問をしているのに、
「田島君も花井君も沖君も凄いなぁ…それに比べて俺ときたら…」と全然違う話を始めた三橋
おいいいい!これには花井も「お前は何を言っとるんだ…」と完全に力が抜けてしまいます
ところが三橋の話は、そこから思いもしない方向へ…
「か…かなわなくても…俺…や、やる!1番もらうために…き、競う…よ!」
「…!」
「ひっ!?ご、ごごご、ごめん!お、俺、自分ダメなの、知ってるから…」
(三橋…毎日戦ってんのか…?俺も沖も、お前と競う気なんかねえんだぞ…?
ウチのエースはお前なんだよ。でも…戦う相手がいた方が、こいつのためには多分いいんだ…
…あ…?相手と比べて…それでいいのか…!打っても守っても、いっつも田島が目の前にいて…
どうやったらこいつ超えられんだよって…どうにかして超えてやりてえって、毎日の挑戦と結果が苦しくて辛くて…
それでいいんだ…!俺は…田島と…競うぞ!!)
花井が聞こうとしたこととはまるで関係のない三橋の話、
しかし日ごろから自分より凄い相手を見上げながら、必死にそれに負けまいと努力しているという姿に、
花井はまさしく自分の手本を見たような気持ちになってしまいます。他人と比べたコンプレックスに悩んでるのは三橋も同じ、
しかしそれは、競い合って自分を高めるのに必要な「いい事」なんだと…ついに花井も気がついたようですね。
こればっかりは三橋が空気読めない奴でよかったと言うべきか…(えー
《3番、サード、泉君》
「え…?け、敬遠!?」
(3番は今日3得点に絡んでる…それに比べて4番はノーヒットだ!勝負すんなら4番だろ!)
さあそして0対6のまま迎えた6回裏ツーアウト、ランナー三塁で3番・泉の打席ですが…
なんと崎玉バッテリーが選んだ策は敬遠!泉よりも不調の花井の方が料理しやすいと見ての作戦です
花井にしてみたらかなり屈辱的な場面ですが…
(…俺の評価は泉よりも下か…田島どころじゃねえ、どいつもこいつも競争相手だ…
でも競う相手はいた方がいいんだ…!考えてみりゃ、
チーム内に競争のないチームなんてダメだ!見とけよ…今度こそ打って入れる!)
しかし今の花井は、これしきで集中力を乱すようなヤワなバッターではない!
これはまさに確変状態に入ったと見るべきでしょうか、いい結果がついて来そうな予感がビンビンしてきます
(これまでの配球から考えて、俺にもスクリューで入ってくるだろ…一球しっかり見る!)
ビシュウッ!
「スットライーク!」
(今のがスクリュー…これなら届くぞ!)
(動かなかったな…手が出ないのか?スクリューはまだ誰にも打たれてない!)
(次もスクリューで来んだろ…?狙い絞って当てに行く!)
ビシュウッ!
「ぬううううッ!!」
カッキイイイイイン!!
見事に相手の配球を読んで完璧に捉えた花井!火を吹くような当たりが外野手の頭を越えて、文句なしの2点タイムリーツーベース!
おお…まだ誰も打っていなかった決め球・スクリューを打ち砕いての長打、しかも7回コールドの条件を越える8点目まで稼いだヒットとなれば、
これまでのマイナスを取り返すのに十分な結果だったんじゃないでしょうか。よかったな花井
「ナーイバッチー!2打点じゃん!次最後にしてやろうな!」
「んんっ…!?お、おう!!」
(元気出た…かな?花井君にはこれからもずっと田島君を意識させていく…!
手助けするからね、頑張ってよ!)
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そんな花井のヒットは、田島も手放しで誉めてくれるナイスな結果。これには花井も「ンッギモチイイイイ!!」と
田島に誉められた達成感を感じているようです。そして試合はもう決まったようなもの、その後は三橋が七回表もきっちりと抑えて
西浦は0−8の七回コールドで崎玉に勝利するのでした
「まあまあの4番だったな!」
「ん…?満足してねーから」
「は?それはスクイズん時言ったんだろ、スクイズで満足してたら俺がすぐ4番取り返ーす!って思っただけ」
「え?すぐ取り返せた方がいいだろ…」
「バーカ!そんなの全然つまんねーよ!一番つまんねーのはケガだけど…あぁ悔しいいいい!!
それに俺、背ぇ高ぇやつキライだし!」
「は、はぁ!?」
「当ったりめーでしょ、俺チビだもん!」
(な、なんかよく分かんねーけど…背高くてよかった〜!)
そして試合後、例の「満足すんな」発言について改めて話をする田島と花井。
どうやら田島は田島で、自分がケガでバントしかできない状況が相当悔しかったみたいですね
バントしか出来ない4番だなんて4番じゃない、だから自分は今回4番を降りたというのに、
代わりに入った花井の初打席の仕事はバント…そんなことで満足されてしまったら、自分が泣く泣く4番を譲った意味がありません
だから田島は「バントなんかで満足すんな」と言ったんだと思います。
4番というのはやはり特別な打順、田島もそこにはこだわりがあって、
張り合いのあるライバル達の中から勝ち取っていきたいみたいですね。次回に続く!
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